経営者からの解雇のご相談で「従業員の能力不足による解雇」は多く寄せられるご相談の一つです。
悩んでいらっしゃる企業は多いと思われますが、現在の労働法制の下では能力のない従業員をすぐに解雇するのは、非常に難しいと思われます。
能力不足は普通解雇の解雇理由となりえますが、第一に、就業規則の解雇事由に該当するか否か、第二に、その解雇理由の合理性、第三に、解雇の社会的相当性を解雇権濫用法理の下で総合的に判断することになります。ですから解雇を検討するにあたっては、この3点を満たすことが実務上重要になります。
能力不足の内容・程度が問題となります。単にその者の能力が他の社員と比較して、低いというだけでは就業規則上の解雇事由には該当しないと考えられ、解雇回避努力として、社員への指導・教育による能力向上の努力が求められます。この過程なくして、社員を能力不足と評価して解雇すると、その解雇が争われた場合、解雇無効とされる可能性が高まります。
能力不足で解雇をする場合は、具体的な事実関係を把握しておくことが必要になります。抽象的に能力不足、成績不良といっても、部外者である裁判官等には通じません。「職場ではどういう水準が要求されているのか」「他の従業員と比較してどうなのか」「業務にどんな支障があったのか」という点を具体的に押さえておくことが必要です。また、会社側が指導・注意をしたという点の記録も残しておいてください。折に触れて「改善指導書」などの書面を通じて証拠を残しておくことも求められます。
指導・注意しても改善されず、かえって反抗するだけとなると、上司のほうで指導する気力が失せてしまう場合もありますが、そうなると指導もせずに解雇したということになりますので、根気強く指導・注意を続けることが重要です。
解雇の前に配置転換を検討して敗者復活のチャンスを与えたかどうかも考慮されます。ただし、無理な配転、嫌がらせととられかねないような配転ではかえって解雇権濫用法理の判断の際にマイナスに作用しますので、注意が必要です。
例外として、高度の能力を有するとして幹部社員を中途採用したものの、期待された能力を発揮できずに解雇となる等のケースでは、使用者の解雇回避努力の程度が軽減され、一般の労働者よりも解雇が認められやすい傾向にあります。幹部社員を採用する場合には、どのような成果を前提として採用するのかを採用時に明確に書面に残しておくことが重要です。
解雇する場合は、労働基準監督署の除外認定を受けないかぎり、30日前の予告か、あるいは解雇予告手当が必要です。能力不足を理由とする解雇の場合も例外ではありません。
能力不足の社員の解雇を有効とした判例
A損害保険事件(東京地裁平成13年8月10日)において裁判所は、成績不良の正社員を解雇する場合は、「それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていること」を要するとしました。 |
投稿者 横浜市 社会保険労務士法人エール | 港北区・新横浜の社労士がマイナンバー対応&労務問題解決 :2008年2月22日